相手先に訪問してのクレーム対応は、電話に比べて憂鬱さが増します。相手の土俵で話をすることで恐怖感が増しますし、そもそもすでに訪問になるくらい長引いてストレスを抱えてしまっているからです。
本記事では、確実に対応を終わらせる訪問でのクレームの対処法や手土産などの具体的な注意点、心構えなどを解説します。
ちなみに、記事内で先方から言われる可能性のある表現は、実際に私が対応中に言われた経験のあるものです。
目次
訪問でのクレーム対応手順
相手先に訪問してクレーム対応をするときの手順は以下のとおりです。
約束の時間5分前に到着
まずは先方と約束している時間の5分前に訪問するようにしましょう。5分前に訪問する理由は「相手から減点を食らわないため」です。
時間ちょうどに訪問すると少し遅刻だと思われる可能性がありますし、10分前に訪問すると早く来すぎたことに怒られる可能性があります。「約束の時間5分前」というのは、そういう意味で一番先方の評価を下げにくい時間なのです。
対応場所で立って待機
クレーム対応をする部屋に通されたら、立って待つようにします。これも先ほどと同じで、相手から減点を食らわないためです。
もし座って待っていた場合、「何勝手に座ってるんだ」と怒られる可能性があります。そのため、基本的にはその場で立って、先方がやって来るのを待っているようにしてください。
ただし、先方(もしくは別の人)に「座って待っていてください」と言われた際は別です。その際は、先方がそこに来るまでは座って待ち、先方がやってきたときに立ち上がって挨拶するようにします。
お詫び
実際にクレーム対応の面談が始まったら、最初にすべきことはお詫びです。
ここでお詫びすることは、「今回の件で相手に不快な思いをさせていること」についてです。この謝り方をすることが一番スムーズに対応が進む上に、謝らないことによって相手の怒りを増幅させてしまうことを防ぐためです。
お詫びする理由を何も言わず、ただ「申し訳ございません」から入ると、先方は「私が何に怒っているのかわかっているのか!?」と激昂させてしまいます。
逆に「●●についてお詫びします」と会話を始めると、「悪いと思っているのはそれだけなの!?」とこれも先方を激昂させてしまいます。
「不快な思いをさせて申し訳ない」以外のお詫びの言葉は、どこに転んでも悪い状況しか待っていないので、使える言葉は一択です。
最初に謝るのは冒頭に相手に不快な思いをさせているという事実のみにしましょう。
具体的な言い回し
具体的な言い回しは以下がベストです。
ただし、事前に何度も先方とやりとりをしていて、こちらの落ち度がわかっている場合は、対応を進める中で判明した自分たちの落ち度も含めます。
お客さまが不満に思ったことをヒアリング(省略の可能性あり)
最初にお詫びをした後、次に必要なことは「先方がどの部分に不満を抱いたかを確認すること」です。ヒアリングをしなければ、何にお詫びすればいいか分かりませんし、先方の怒りを解決するための解決策を検討することもできないからです。
私はいつも、
●●についてご意見をいただいていますが、改めてぜひ詳しくお聞かせ願えないでしょうか?
と深堀りするようにしています。
先方のヒアリングを深掘りすることによって、どこにお詫びすればいいのか、そしてどんな解決策が最適なのかを探りましょう。
ちなみに省略の可能性があるのは、電話などですでに何度もやり取りをしている場合です。すでに先方から聞いている不満をもう一度聞くのは二度手間となり、逆に先方を怒らせてしまうからです。
ヒアリングの際によく使う相づち
ヒアリングの際に私がよく使っている話の聞き方を5つ紹介します。
- 「そうですよね。」
- 「私も同じ立場であればそう思います。」
- 「それは大変でしたね。」
- 「おっしゃる通りでございます。」
- 「●●だと思われたということですね?」
上の4つは先方に「共感」するために使う言い回しです。先方が何か1つ話すたびにどれか1つで返すというイメージです。
クレームを言う人は自分が間違っていると思っていませんし、基本自分の話を聞いてほしいと思っています。そのため、常に先方の話を聞いているし、共感しているという姿勢を見せ続けなければなりません。それをしなくなった瞬間に「聞いているの!?」と先方を激昂させてしまうことになります。
ただ、どうしても先方の言い分が間違っているのでそれを否定したいと思うこともあるでしょう。その際は、頭ごなしに否定するのではなく、「●●だと思われたということですね?」と伝えて、先方の意見を「一旦受け入れている」という姿勢を見せることで、スムーズに話が進みます。
相手が話した言葉をそのまま繰り返すのは「オウムがえし」という技術です。
同じことを繰り返して話しているだけなのですが、それだけで先方は「自分の話を聞いてもらえている」という印象を持ちますので、先方の言い分が違うと感じた際は活用してください。
解決策の提示
ヒアリングして判明した相手の不満な点を元に、それを解消する解決策の提示を行います。
話を聞くだけで対応が終わるクレームもまれにありますが、基本的には先方が納得する「何か」を提示しなければクレーム対応は終わりません。
先方の不満が商品の動作不良であれば代替品を、こちらの対応不備であればそのお詫びの対応と再発防止策を先方の不満の解決策として提示しましょう。
具体的な言い回しは以下のようなものがオススメです。
この提案が先方の期待値を上回るものだった場合、そこでクレームは収まります。
逆に先方の期待値を下回るものだった場合、「それだけ?」とまたクレームを炎上させてしまいます。
事前に上司と相談して、こちらが提案できる解決策はどこまでなのかを決めた状態でクレーム対応に臨みましょう。
感謝
解決策の提示をしてそれで先方が納得した場合は、最後に感謝して終わります。
これは、クレームを言った人をその場でこちらのファンに変えるためです。
例としては以下の3つです。
クレームを言った人は、そのクレームが解決した場合には、ちょっと言い過ぎたかな……など、たいてい少し気まずい思いを持ちます。
ただ、お礼を伝えることで「嫌なこと言ったのに感謝してくれるなんて……」と恐縮してくれます。
こうなったら相手は一気にあなたのことを好きになってくれて、根強いファンとなってくれます。
クレーム対応の際は必ず最後にお礼を伝えるようにしましょう!
手土産を渡す
クレーム対応の最後に、手土産を渡します。感謝と同じで、先方をこちらのファンにすることを目的としています。
渡すときの伝え方は、「こちらは私どもの気持ちでございます。」でOKです。
先方をファンにするためのポイントは、「手土産は今回のクレームとは全く関係がないこと」を伝えることです。クレーム対応と手土産を関連づけてしまうと、わいろだと受け取られる可能性があるからです。
つまり、「この手土産で苦情を収めろってことか?」と、せっかくの手土産で無駄に炎上させてしまう可能性があるということです。クレーム対応のすべてが完結してから手土産を渡すことで、上記を防ぐことができます。
手土産に関する注意点は本記事の後半部分で詳細に記載しています。
退室
すべての対応が終わり、手土産も渡したら、スムーズに退室しましょう。ここでのポイントは、先方の敷地を出るまで一切気を抜かないことです。
どこで誰が見ているか分かりませんので、一瞬の油断がそれまでのクレーム対応が一気に無駄になることもあります。そのため、たとえば以下のようなことは敷地を出るまで一切しないようにしましょう。
- クレーム対応の感想を話す
- 電話やメールをする
- 一服する
キビキビとした動作で、先方の敷地を出るまでは一切気を抜いてはいけません。
お礼状を書く
クレーム対応が終わったら、先方に手書きのお礼状を出しましょう。
先方をただのファンから「根強いファン」に変えるためです。
私はいつも以下のようなお礼状を出しています。
●●さま 先日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。また、おっしゃりづらいこともあったかと存じますが、大変貴重なご意見をいただけたことにも感謝しております。今後●●さまにより一層のご満足をいただけるよう、精一杯取り組んでまいります。どうか引き続きよろしくお願い申し上げます。
内容はそこまでこだわっていません。「お礼状を出す」という行為で先方を根強いファンに変えるという目的は達成できるので、ぜひお試しください。
訪問でのクレーム対応における注意点
ここからは、訪問でのクレーム対応の注意点などを記載します。
手土産に関する知識
まずは訪問のクレームで迷いってしまいがちな手土産について、注意点を列挙します。
焼き菓子を選ぶ
持参する手土産は、焼き菓子のものを選ぶようにしましょう。
生物はすぐに腐ってしまいますし、早く消費しなければならないという余計なプレッシャーを先方に与えるからです。
そのため、以下のような日持ちのするお菓子がオススメです。
- せんべい
- まんじゅう
- クッキー
- パウンドケーキ など
これらのものを3,000円以内で準備しましょう。
先方の近くでは買えないものを選ぶ
これはできればでOKですが、先方がすぐに買えないようなものを選びましょう。
先方がすぐに買えるものであれば、「あぁ、あそこで買ったんだね」とこちらの印象を下げる可能性があるからです。
地元で有名なお菓子を準備するのがオススメですよ。
先方に見えないように持つ
手土産を持っていく際は、先方に見えないようにカバンにいれるようにしましょう。もしそれが見えてしまうと、「そんな見えるように持ってくるとは、それで終わらせようとしてるんだよな?」と逆効果になることがあるからです。
それに、自分から見えているものを渡されるよりも、最後に突然渡される方が受け取る際の驚きは大きくなるのは予想ができると思います。
カバンに入れて、相手に見えないようにして持参しましょう。
袋から出して渡す
先方に用意した手土産を渡すとき、袋から出した状態で渡します。
袋に入れたままそのまま渡すより、丁寧な印象を与えられるからです。
付随して、ビニール袋では印象が悪いので、手土産を購入したお店の店員さんに紙袋がないか相談しておきましょう。
袋は折りたたんで手土産のざぶとんのようにして渡すのがいいでしょう。
会話の録音の可否
クレーム対応の際に、会話を録音していいかどうかは以下の通りです。
- 先方の許可を得られた場合はOK
- 許可を得られなかった場合、もしくは許可を得なかった場合の録音は損害賠償請求の可能性がある
東京高等裁判所の昭和52年7月15日の判決によれば、「許可なく会話の録音をすると人権侵害になる」とのことで、すぐにどうにかになるわけではありませんが、民事訴訟を起こされた場合に負ける可能性があるということです。
そのため、勝手に録音をしない方がリスクを避けられているといえます。
録音して何にも使わなかったデータが元で損害賠償請求されると、こちらがただダメージを受けるだけですからね。
座敷に通された場合正座でい続けるべき?
長時間の正座をなんとも思わないのであれば、正座しておくに越したことはありません。
脚を崩すことで先方にマイナスなイメージを持たれることを防ぐことができるからです。
ただし、一言「脚を崩してもよろしいでしょうか?」と聞いて、許可をいただけたなら正座をしなくてもOKです。
正座が苦手な人は、最初に先方に断りを入れておきましょう。
訪問するときのスーツについて
クレーム対応を行う際の格好は、次の組み合わせをオススメします。
一番無難かつ、先方に嫌な印象をもたれないからです。
自分が逆の立場だったとして、クレーム対応にやってきた人がストライプのスーツや茶靴でチャラチャラしていたら、第一印象が悪いですよね。
クレーム対応は先方にマイナスイメージを与えないことが重要なので、上記の組み合わせで訪問しましょう。
クレーム対応の心構え
ここからは私の個人的な考え方について記載します。
クレーム対応が憂鬱で仕方がないという人は、ぜひ参考にしてみてください。
クレーム対応を行う際は、私は以下のような考えで対処にあたっています。
- 相手にマイナスイメージを与えないことが大切
- ヒアリング力や提案力などを高める絶好の機会
- どんなクレームでも命を取られることはない
- いつか笑い話になる
相手にマイナスイメージを与えないことが大切
冒頭にも記載した通り、本記事内の先方に言われる可能性のあるセリフはすべて私が実際に言われたものです。
そんなことで怒るかなぁ? と思いたくなるセリフもあったと思います。
実際クレーム対応をした後はそんな風に思っていました。
ただ、何回も対応をしているうちに、クレーム対応は「水で溢れる寸前のコップの中身を入れ替える作業」だと思うようになりました。
どういうことかというと、先方の意見や不満である水がコップから溢れて、訪問を要求されるクレームとなり、訪問したてのタイミングではそれが表面張力でギリギリ保たれている状態です。
先方の不満をヒアリングして少しずつ水をこぼさずに汲み取り、こちらの提案という新しい水をこぼさず注いでいくようなイメージなのだと。
だから細心の注意を払って先方にマイナスイメージを与えないようにしたり、先に話を聞くことが重要だったりするのです。
もし「確かに!」と思われたのであれば、クレーム対応をする際は先方に嫌な印象を与えないようにすることを心がけてみてください。
ヒアリング力や提案力などを高める絶好の機会
クレーム対応は自分のスキルを上げる絶好の機会だと私は感じています。
クレーム対応中は的確に先方の要望を聞き取る必要がありますし、それを確実に満たせる提案をする必要があるからです。
何か間違えるとすぐに怒られるので、これほど緊張感のある実践はそうそうできません。
そう思ってからは、クレーム対応の機会がやってくると「やばい、また成長できる」と心の中で思うようにしていますし、それによって私はクレーム対応に対して憂鬱な気持ちを抱かなくなりました。
どんなクレームでも命を取られることはない
どれだけクレーム対応の選択肢を間違えても、命を取られることはありません。
せいぜい会社で怒られるか、ひどくてもクビになるだけです。
生きている限り、いくらでも再就職できますし、会社で怒られても寝たら忘れます。
どれだけ最悪の想定をしてもこの程度なので、いちいち気持ちを落としていては身が持ちません。
逆に開き直ると、クレーム対応へのプレッシャーも和らぎますよ。
いつか笑い話になる
クレーム対応が大変であればあるほど、その経験は後に必ず笑い話になります。
これは私の経験上100%です。
一緒に対応した人とは「あのときは大変だったよなぁ」と話ができますし、プライベートでも自分の苦労話として話の引き出しを増やすことができます。
そしてそれは、自分の失敗談的な自虐の内容になるので、絶対ウケます。
自分のとんでもエピソードを増やす機会だと思えば、クレーム対応は全く怖くなくなるでしょう。
さいごに
私も初めはクレーム対応は憂鬱でした。
ですが、正しい対処方法やポジティブな考え方ができるようになってからは全く憂鬱になりません。
本記事の内容が、クレーム対応が憂鬱で仕方がない人に少しでも貢献できればと思っています。