「モンスター部下」と呼ばれるややこしい部下の対応に手を焼いている人も多いのではないでしょうか。初対面の印象ではそれほどではなかった部下が、ある日突然「えっ、そんな感じだったっけ?」とモンスター部下に急変したように見えることがあるかもしれません。それもそのはず、初見からモンスター部下になりそうな人は面接で落ちているからです。
本記事では、突如出現するモンスター部下の対処法を共通していることやケースごとに解説していきます。
目次
モンスター部下の共通の対応方法
モンスター部下の対応方法の中で共通して効果的なことは、部下自身に「それを自分がされたらどう思うか」と相手の立場に立って考えさせることです。
モンスター部下といわれるくらいの行動は、冷静になって見返せばだれだって「おかしい」と感じることができるからです。
自分がされたらどう思うかと考えさせることで、今自分がしていることがどれだけダサいことなのかを部下は認識することができます。
逆に、モンスター部下は行動しているその瞬間は「絶対に自分が正しい」と思って動いています。基本的にモンスター部下になる傾向がある部下は自分に自信を持っており、自分が間違っているとは思っていないからです。
そのため、必ずモンスター部下が冷静な場で対処するようにしましょう。
具体的な対応方法
全体の場で、指導力を向上させる「リーダー向け研修」と称してケーススタディの中で紹介し、ディスカッションさせるのが効果的です。
研修の概要は以下のとおりです。
- 研修名:次期リーダー向け研修 or 市場価値を高める研修
- 参加者:原則全員(ある程度絞ってもよい)
- 実施目的:全員をリーダーにさせるのではなく、リーダーの考え方も知っておくことが自分の市場価値を高めることにつながるから
- 研修内容:リーダーとしての心構え(座学)と、「こんなときどう指導する?」という内容のケーススタディ(ディスカッション+発表)
- 所要時間:30分から1時間程度
この内容に以下のようないろんな狙いが詰まっています。
項目 | 狙い |
---|---|
研修タイトル | 次期リーダー向け、自分の市場価値を高めるという名前が自尊心の高いモンスター部下の参加意欲をくすぐる |
参加者 | 全員の方が参加に強制力を持たせられるが、次期リーダー向けという名前にするならある程度参加者を絞ってモンスター部下を指名した方がより効果的 |
実施目的 | もしもモンスター部下が人の上に立ちたくないという考えがあったとしても参加意欲を掻き立てる狙いがある |
内容 | ディスカッションが本来の目的だが、何かしら部下が持っていないものを伝えないと研修としての満足度が下がるため、座学を用意。管理職自身が自信のある分野でOK。 |
所要時間 | あまり長すぎると間延びして「時間の無駄だったよな」とモンスター部下に付け入る隙を与えてしまう |
ポイントになるのは、ケーススタディの課題として例示する内容が、モンスター部下が「あ、これ自分のことだ」と思わないように設定されているかどうかです。
ここでモンスター部下に勘づかれてしまった場合高確率で失敗に終わります。シチュエーションや言い回しに注意してケースをアレンジしましょう。
モンスター部下に勘づかれずにケーススタディを構成できた場合は結構簡単に効果が出ますので、ぜひ試してみてください。
この方法が効果的な理由
この方法が効果的な理由は2つあります。
- 自分に自信を持っているモンスター部下の人格を否定せず修正できる
- 自分に自信を持っているモンスター部下だからこそ、その場で自分の対応とは真逆の正解を出そうとする
モンスター部下は自分に自信を持っているという特徴に着目したことから考えた対処法です。
モンスター部下の言動をその場で注意したり修正しようとしたりしても、相手は自分に自信を持っているため簡単には覆らないです。それを踏まえて、あえて日を空けて部下を冷静にさせてから、全体の場で改めて実施するのです。これによって、直接モンスター部下を指導することの部下自身の心理的負担をなくし、モンスター部下の人格を否定せずに済みます。
さらに、全体の場でディスカッションとすることで、自分に自信を持っているモンスター部下は周囲の人間の上に立とうとします。その結果、ケーススタディに対して、「この場合には自分だったらこんな風にするな」などと積極的に答えを出そうとするのです。
このように、モンスター部下の特徴を逆手に取って、研修内でディスカッションをさせることが非常に効果的なのです。
モンスター部下の特徴を知って、早めに見極めよう
モンスター部下になる可能性がある部下は、私の経験上以下のどれかに当てはまります。
- 自分に自信を持っていることが言葉の節々から分かる
- 全体の場では口数が少ない
- 目に曇りがある
- 何かにつけて批評したがる
モンスター部下って基本的に自分に自信があって、全体の場では発言せず、陰口をよく言い、批評家っぽいところがあります。
モンスター部下になる前に手を打つためには、その部下がモンスター行動を取らないように自分との距離を縮めておくことが必要です。
つまり仲良くなっておくってことです。
モンスター部下は、気に入らない会社や上司、先輩やルールなどに猛烈に反発します。そのため、モンスター部下を生み出さない方法はその部下と積極的に仲良くなっておくことだと私は思います。
なぜそう思い至ったかというと、仲良くなっておくことでその部下に対してある程度好意的な感情が生まれるので本音で話し合えたり、トゲがある言い方をされなくなりますが、仲良くない状態では少しのモンスターっぽい言動でも追及したくなってしまうからです。
実際に「ヤバいやつ」と評されていた社員が私の部下になったときは、私は新入社員研修のときに仲良くなっていた相手だったので、何も思わず冷静に指導できました。
逆に仲良くない状態で私の部下になった相手に対しては、こちらもイラッとしてしまって余計に溝が生まれてしまうこともありました。
モンスター部下にならないように相手に媚を売る必要はないですが、組織を円滑に回すためにはある程度の仲の良さも必要だということです。
モンスター部下対応のストレスから解放される方法
上記に記載した方法で大抵のモンスター部下に対処することができますが、改善するまでにはある程度時間がかかるかもしれません。その場合はモンスター部下と付き合っていくことになるでしょう。
モンスター部下と並走しなければならないときに、その対応や指導のストレスから解放される方法をご紹介します。
超ポジティブシンキング
まずは超ポジティブシンキングをすることです。
正直大抵のことはポジティブシンキングでなんとかなります。
具体的には、モンスター部下と出会ったことで、逆に自分のマネジメント力を鍛えるチャンスだと思い込むのです。
これができれば、モンスター部下がたとえどんな対応をしてきたとしても、「おっ、今日もまた私を試してくれてるな!」と前向きに捉えることができるので、ストレスとはおさらばでしょう。
部署異動させる
ポジティブシンキングが難しい場合は、部署異動をさせるよう各方面に働きかけましょう。
ストレスと向かい合うことができないのであれば、根源を立つしかないからです。
自分と違う部署に異動させるときに必要なことは、いかにその部署に部下が向いているかを力説することです。
だれもモンスター部下を自分の部署に受け入れたくはないですからね。
「彼はダメなやつだから異動させてほしい」と伝えるのではなく、
彼は●●の理由でそちらの部署の方でこそより活躍してくれます! これは間違いないですね!!
と伝えた方が受け入れる側も乗りやすいです。部下の長所をよく見て、それを伝えられるように準備しましょう。
私が出会った3人のモンスター部下
ここからは、実際に私が出会ったモンスター部下とその具体的な対応方法について記載します。
※ここに記載した対応方法はすべての部下に対して行うべきものではありません。あくまで、「普通ではない」部下に対してのものだと思ってお読みください。
もし自分の近くに当てはまる部下がいた場合は、上記のリンクから該当箇所に飛んでください。めちゃくちゃ具体的な対応を解説しています。
次項からそれぞれの部下が具体的にどんな人だったのか、どのように対応したのか、対応結果について解説していきます。
平然と嘘をつき続ける部下
まず1人目は、嘘をつき続けてしまう部下についてご紹介します。
彼がついた嘘は下記のようなものです。
- 実際はお客さまの元に訪問していないのに「訪問した」
- 実際はお客さまに連絡していないのに「連絡した」
要するに、「●●をした」と報告をしているにもかかわらず、実際はそれをしていないという嘘を重ねていたのです。
実際のケース
車で営業同行をしている際、契約の可能性のある人に連絡するように指示を出しました。
助手席に座っていた彼は、その場で携帯電話から連絡をしたようなのですが、後部座席に置いてある彼のカバンから携帯のバイブ音が聞こえました。
プライベートの携帯が鳴ってるよ? 大丈夫?
問題ないです。あと、お客さまはつながらなかったです。
彼はすぐさま上記のように回答しました。
別の見込み客に連絡をかけるよう促したところ、先ほどと同じように彼が電話しているときにプライベート携帯が鳴り、相手に連絡がつながらなかったと報告を受けました。
おかしいと思った私は、彼に携帯を見せるよう伝え、何度か渋られましたが、結局確認することができました。
そうすると、自分のプライベート携帯に連続で電話をかけていたことが分かりました。
このように、彼は電話を相手にかけていないにもかかわらず、電話をかけたという嘘をついてしまう性格でした。
だいたい1週間に1回くらいはこんなことがありました。
課題
彼が嘘をついてしまうのは、本人の見栄っ張り、つまり怒られたくなかったり、人より劣っていると見られたくなかったりという思いが原因です。
加えて、「この人には少しくらい嘘をついたって何も問題ない」と思われていることも原因です。
ですが、それと同時に、失敗を許容しないまたは失敗を笑われてしまう雰囲気がある会社の環境も問題があると私は考えました。
対応方法
具体的に実施した改善策は以下の2つです。
嘘をつけない状況を作る方法
おかしいと思ったときには徹底的に裏をとって、矛盾が生じていると感じたことは徹底的に追及するようにしました。
彼自身に、嘘をついても意味がないし、逆に怒られてしまうと思わせるためです。
具体的には、お客さまに連絡する必要がある案件があったとして、連絡がつかなかったという報告があったら、私も一度お客さまに連絡してみるということをしました。
その上で、連絡があったのかどうかもお客さまにヒアリングしているので、彼が連絡しているかどうかはすぐにわかります。
もし嘘をついていれば、事実を元に徹底的に追及します。
嘘をついた方が損だと思わせる方法
私が彼を叱るルールを明確化しました。
これによって、嘘をつけばつくだけ損だという考えを身につけさせることを狙いました。
実際のルールは、「叱るのは嘘をついたときだけ。それ以外の失敗はまったく不問にするし、かばう」と決めました。
そしてこれを彼とも共有しました。
対応結果
上記2つの対応をした結果、彼は組織内で嘘をつくことがなくなりました。
ただ、部署異動をした後にまた嘘をつく人に戻ってしまったらしく、今回の方法は根本的な解決にはならなかったことがわかりました。
あくまで自分の指揮下では嘘をつかなくなるという意味では有効な方法だったのかもしれません。
こちらのすべての指示を「おかしい」と否定する部下
2人目は、こちらが出した指示に対して、「それはおかしい!」と1度必ず否定する部下です。
転勤になったことや経費精算の指導、言葉遣いへの注意など、あらゆることに対して「納得がいきません」と反論していました。
実際のケース
直近で印象に残っているのは、お客さまの前では方言を使わないように彼に伝えたときに激昂したことです。
私が勤務している会社は全国展開なので、どこのお客さまに対してもきちんと話せるように、対外的には標準語で話すことが推奨されています。
そのため、その指示を出したところ彼は
それは従業員の個性を潰しているので受け入れられません。
と否定したのです。
このように、彼はいつどんなことにも基本的にネガティブな反応を示します。
課題
彼の課題は、彼の主張の中にだれもが頷く理由があるのではなく、自分が気に入らないというのが大半の理由であることです。
もちろん、会社の方針に意を唱えることがNGとは私も思いません。
むしろ積極的に意見すべきだと思うので、意見をすること自体は歓迎すべきことです。
ただ、その理由があまりにもレベルの低いものだったということです。
先ほど記載した、標準語を話せるようになってほしいという指示に対するリアクションが「個性を潰すことなのでしたくない」というようなよく分からない理由の返答が多いのです。
対応方法
私が彼に教えたことは、意見を通したいときは「相手本位」で話す方がうまくいくということです。
相手本位で話すということは、自分の要望をさも相手の要望であるかのように話すことです。
これを伝えた理由は、彼の人生に役に立つと感じたからです。
たとえば、標準語を話すように言われたときに拒否したいのなら、
実際にお客さまに連絡してヒアリングしたところ、実に8割のお客さまが方言の方が親しみやすいと回答してくださっています。
お客さまとより良好な関係を築くためにも、標準語よりも方言で話した方がいいと思うんです。
と仮に回答することができれば、それでこちらも納得したかもしれません。
こちらのゴールはお客さまと良好な関係を築くことなので、私は先ほどの回答を否定することはしません。
このように、本当に何かを変えたいと思うのなら、そのまま自分の思いを伝えるのではなく、相手が動いてくれるような言い回しを考えるように伝えました。
対応結果
相手本位で話すことを伝えてから1カ月程度で、別のことが理由で休職となってしまったため、その後の成果は正直分からないです。
本人に少しでも気づきがあれば良かったのですが、現状知る術はありません……。
少しのことで激昂してしまう部下
次にご紹介する部下は、少しのことでキレてしまう部下です。
情緒不安定と言った方がいいかもしれません。
実際のケース
私が勤務している会社では、1人につき1台iPadが貸与されます。
彼はそのiPadを大事に扱ってくれていたのですが、彼が知らないうちに彼の同期社員がそのiPadを使用していました。
普通の対応であれば、他人のiPadを使用した理由を聞いて、事情があるなら貸してあげたり、そうでなければ自分のものを使用するように促したりすると思います。
ただ、彼は理由を聞いたり声をかけたりすることもなく、いきなり「アァー!!」と大声を出して同期社員を突き飛ばしました。
私も含めて周囲も全員その行動にびっくりしました。
と、このように「そんなことで怒る?」と思うようなことでキレてしまう部下でした。
課題
彼の最大の課題は、何か想定外のことが起きたときに冷静さを欠いてしまうことでした。
イレギュラーへの耐性がほかの人よりも低かったのかもしれません。
キレてしまうだけではなく、慌ててしまうこともありました。
約束していた期限に提出物が遅れてしまっただけで、かなり慌ててしまうくらいでした。
対応方法
彼への対策としては、冷静でいられなくなる前に相手のことを考えるように伝えました。
頭ごなしに「落ち着け」と話すのではなく、それを受け入れた上で修正しようと考えたからです。
具体的には、下記のような感じで彼に話をしました。
キレてしまうことはわかる。ただ、だれかが同じように、キレてきたらどう思うかな?
きっと『なんだ急にキレちゃって』って思うと思うんだよね。
そしたら、その人からちょっと距離置こうって思うよね。そうなると何が起きるかというと、だれもその人のそばに寄らないし、話も聞いてくれなくなるんだ。
それっていやだよね。だから、キレてしまっても何もいいことがないってことを知っててほしいんだ。
こんな感じで伝えることにより、万が一キレそうになってしまっても一呼吸置けるようにしました。
対応結果
結果として、彼は急にキレることはなくなりました。
彼は何があっても落ち着いて対応できるようになりましたし、落ち着いて仕事を習得していくことで成果を上げていくこともできるようになりました。
ですが、彼も最終的には会社の判断で退職することとなり、退職してからはどうなったのかは分かりません。
年上のモンスター部下に出くわした場合
モンスター部下が年上の場合も、基本的な対応手順は同じで、全体の場でケーススタディを実施しましょう。
年上の部下に対する対応方法は以下の記事にまとめていますので、こちらもご覧ください。
年上のモンスター部下は、自分より年下の部下よりも圧倒的に自分に自信を持っていますが、特徴は基本的に同じです。
さいごに
モンスター部下への対応方法は、そっくりそのまま相手にお返しして考えさせるのが効果的です。
自分の部署にモンスター部下がいる場合は、自分のストレスも溜まりますし組織としての成果も出ませんので、早々に手を打つことをオススメします。