マネジメントにマーケティングを活用してみよう。
そう思ったきっかけは、井上大輔さんが書かれた『マーケターのように生きろ』という本を読んでからでした。
この本では、マーケターとしての考え方を個人のキャリアプランに生かしていくための説明がなされています。
筆者がこの本を読んで得た知識を実際の組織運営に応用してみた結果、現状に不満を持っている部下が多い組織の雰囲気を改善することに成功しました。
本記事では、その経験の中で実践したマーケティングの知識をマネジメントに生かす方法について記載していきます。
目次
マーケティングの4ステップ
まずは、本書で紹介されているマーケティングの4ステップをマネジメントに当てはめてみます。
- 市場を定義する
- 価値を定義する
- 価値をつくりだす
- 価値を伝える
市場を定義する
「市場を定義する」、つまり、自分がどこのどんなフィールドで力を発揮するのかを決めることが大前提です。
市場がどこなのか? という部分をマネジメントに置き換えると、自分(管理者)がマネジメントの力を発揮するフィールドは「自分の部署」になります。
改めて、自分の部署は何をするところで、どういう人たちが集まっているのかを考えて「●●な人が集まった自分の部署」に言い換えてみましょう。この置き換えが次のステップで役立ちます。
第1ステップはこれで終了です。簡単!
本来何かビジネスを始めようとしたときに、誰に何を売るのか一切決まっていないのが当たり前です。その状態からビジネスを始めるために、まず「誰に売るのか」を決めるところからスタートします。
そのため、市場調査を行って市場規模や成長性、競合環境や関連性、既存事業とのシナジーなどを総合してどの市場の誰にサービスを届けるかを決めるのです。
ただし、これはマネジメントにマーケティングを応用する上ではほとんど不要です。なぜなら、自分がマネジメントをする部署は自部門と決まっているからです。
マネジメントを提供する「誰に」という対象者は決まっているので、次のステップで「どんな」を明らかにしていきましょう。
価値を定義する
自分がマネジメントする部署の情報を集めて市場を定義できたら、次はその市場に届けるための価値を定義します。
簡単にいうと、部下たちは何を望んでいるのか、何を求めているのかを考えることです。具体的には以下の流れで価値を定義します。
市場や対象者がどんな人たち(集団)なのかを知る
ステップ1で自分がマネジメントを行う市場を「自部門」と設定しました。今度は、その人たちがどんな人たちなのかを知る必要があります。
具体的には、以下の情報を部下に直接ヒアリングするのがいいでしょう。
- 年齢
- 性別
- 出身地
- 家族構成
- 趣味
- 部署の仕事内容
- 個人が担っている仕事内容
- 仕事をする理由
- 仕事の目標
- 最近仕事に対して思っていること
- 得意なこと
家族構成や趣味などの基本情報は置いといて、仕事に関することはまず自分一人で予想してみましょう。こうやって仮説をたてて、その検証をするためにインタビュー(面談など)を活用することで、ただマーケティングをマネジメントに生かすだけではなく、自分のPDCAのスキルを上げていくことも可能となります。
この調査を繰り返し、自分がマネジメントを行う部署はどんな主義主張の団体なのかを把握することが、マネジメントにマーケティングを流用するための第一歩となります。
市場や対象者にとって価値のあるものは何かを知る
部下の基本情報だけではなく、部下の価値観について質問することが非常に有効です。
部下が何に価値を感じるのか(=こちらが何をすれば喜ばれるのか)をダイレクトに聞くことで、価値の定義というフェーズを終了させることができるからです。
新商品のマーケティングに置き換えると、「どんな商品が素敵だと思いますか?」みたいに直接聞くようなものです。この質問の回答を得ることができれば、それが答えに直結するのはイメージがしやすいと思います。
マーケティングの場合、市場にいる消費者の数が膨大なため1人ずつインタビューすることは非常に難しく、基本情報から仮説を立てて検証していく必要があります。ただ、マネジメントで1人のができる理由は自分が定義している市場が非常に小さいからです。
そういう意味では、通常のマーケティングでは到底できないレベルで、市場が求めている価値を炙り出すことができるため、部下に直接聞かない手はないということです。
ぜひ、「仕事をしていてうれしかったときは?」「上司はどんな人であった方がいいと思うか?」など、こちらが求めている答えを直接聞いてみましょう。
価値の定義を怠るとどうなる?
価値(=部下の情報)の具体化を怠ると、その後提供する自分のマネジメントという価値が的外れになる可能性が高まります。
例えば自分にとっての市場を「プロ野球を観戦するために球場に来ている人」と決めたとしましょう。この人たちにビールを売ろうとしたところで、今ではほとんど売れないかもしれません。新型コロナウイルスにより、声を出しての応援ができなくなりましたからね。
価値の定義を怠った結果として生まれるのは「過去の経験に基づいた自己満足のマネジメントをする上司」です。
今のマネジメントがうまくいっていないと感じるなら、なおさら価値の定義には注力しましょう。
価値の定義の注意点
価値を定義する上での注意点として、定義した価値は定期的に見直しを行いましょう。
自分が欲しいものが常に一緒ではないように、部下たちの希望も常に一緒ではないからです。
筆者の経験的には3カ月で人は変わりますので、特に期間にこだわりがない場合は3カ月ごとに部下と面談して、価値の定義をアップデートしていきましょう。
価値をつくりだす
ステップ2までで、管理職が部下にどんな価値(マネジメント)が求められているのかが分かってきました。
次に行うべきは、こちらが部下に提供する価値を実際につくりだすことです。
つまり、部下が望んでいることを実現していきます。
価値をつくりだすには、以下フローチャートをもとに動くとスムーズです。
まずは部下が求めている価値をつくりだすに当たって、「自分が実現できそうかどうか」という判断をしましょう。
例えば、「困ったらすぐ相談に乗ってくれる上司が理想」だと部下が感じているならすぐに実践できると分類します。ですが、「定時で仕事を終わらせられるようなコントロールをしてくれる上司が理想」だと部下が感じているなら、それは自分一人ではなくほかの部署との折衝も必要になるでしょう。このように、まずは自分だけで部下が求めている価値を提供できるかどうかの分類をします。
次に、自分でできるものだけを揃えてまずは実現していきます。
自らの心構えや日常の行動だけで実践できるものもあれば、企画や調整が必要なものもあるでしょう。重要度や工数を考えて優先順位をつけながら実践していきます。
部下が求めている「●●な上司」を作り出していきましょう。
価値を伝える
最後に、部下が求めている価値を作り出したらそれを部下に伝えます。
相手に伝えなければ、価値を作り出した意味がないからです。
仕組みの改善など何かひとつの結果が出るものならその結果報告、相談のしやすさなどの継続的に必要な価値ならそうなっていることを事あるごとに伝えるなどが該当します。
特に、課題を解決してほしい系の要望に対する価値を作り出した場合は、以下3項目を部下に報告することをオススメします。
- 何をしたか
- どう変わったか
- どの課題を解決したか
これは「こちらがどれだけがんばったか」を示すために行うのではなく、部下自身が自分の希望通りに課題が解決されたかどうかの確認ができるようにするために行います。また、1つの課題の解決の仕方や手順を部下に伝えて、次から部下自身で取り組んでみることにも効果を発揮します。
『マーケターのように生きろ』内でも引用されていますが、経営の神様である松下幸之助氏も、以下のような言葉を残しています。
われわれ商人・産業人には「この商品をあなたがお使いになれば、便利で利益になりますよ」ということを消費者にお知らせする義務がある。その義務を果たすために「宣伝」をするのだ。
松下幸之助(引用:AERA dot.)
部下にとっての価値を生み出す以上、上司であるこちら側もそれを部下に伝えることが義務であるといえます。
そりゃそうです。せっかく作り出した価値も相手に届かなければ意味がないですから。
「こんな仕組みができたから、君たちはもっと楽に仕事ができるようになるよ」と自信を持って宣伝していきましょう。
もちろん、相手にとって素敵な価値を作り出した上で、です。
4ステップでもっとも大切な工程
マーケティングをマネジメントに応用するにあたり、4ステップの中で一番大切なことは「価値を定義する」ことです。
文章の量でおおよそ気付かれたと思います……。
価値を提供する相手が何を望んでいるのかをハズレなく定義することさえできれば、あとは価値を作って伝えるだけです。逆に価値の定義がズレていれば、いくら価値を作り出して伝えようとも部下には響きません。
その他マーケティングの領域でマネジメントに生かせるもの
『マーケターのように生きろ』を読んでから、マーケティングの汎用性の高さに気づいた筆者は、他にもマネジメントに応用できそうなものがないかを考えてみました。
特に以下の3つは親和性が高そうなので、ぜひ参考にしてみてください。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップとは、こちらが定めた何かしらのゴールに向けたお客さまの行動を細かく分けて、分けられた行動ごとにこちらがすべき最適な行動が何かを見える化したものです。
よく例として上がるのが、新規顧客が自社の商品を購入することまでを見える化したカスタマージャーニーマップです。
以下の図をご覧ください。
お客さまの行動、そのときの心情(パーセプション)、お客さまの心情や疑問を解消するために必要なもの(コンテンツ)などが記載されています。
カスタマージャーニーマップを作成することで、お客さまへの案内が的外れになることが防げますし、お客さまは無意識のうちに「自分のことを分かってくれている!」と好印象を抱いてくれます。
これをマネジメントにも活用すると、対象者は自部門の部下、ゴールは個人目標達成や仕事に満足して前向きに取り組んでいる状態などになります。
それをもとにカスタマージャーニーマップならぬエンプロイージャーニーマップを試しに作成してみると、以下のようになります。
部下がどのステージにいるのかを見定めた後、満足して仕事をしている状態に持っていくために必要なことが見えるかされているため、次の行動が打ちやすくなります。
部下との折衝で困っている人はぜひ作成してみてはいかがでしょうか。
スコアリング
次に「スコアリング」です。スコアリングとは、顧客の行動に点数をつけ、ある一定の点数に達したらこちらから連絡するなど、闇雲にコンタクトを取るのではなく連絡の優先順位付けや効率化を行うための考え方です。
よくあるのはカスタマージャーニーマップと同じで、新規顧客獲得の際に使われることが多いです(その場合はリードスコアリングと呼んだりします)。
例えば新規顧客獲得であれば、自社のウェブサイトを1回訪れたら1点、3点になったら興味があると考えて販売促進のメールを送信してみよう、といった具合です。
注意点として、スコアリングする上で一番大切なことが「何を点数化するか」を決めることが重要です。
購買意欲を見える化して誰に営業をかけるか判断したいのに、満足度を見える化しても意味がないですからね。
マネジメントにスコアリングを活用する場合は、満足度や意欲、前向きさなどに点数をつければ良いと筆者は考えます。
部下の成績を上げるための指導はたたき上げの現場管理者はいくらでもできますが、メンタルケアや人間関係の構築などはなかなか難しいことだからです。
筆者の部署では、満足度の高い部下を見つけるというよりは、調子の良くない部下を見つけてフォローすることに、なかなかどうして役立っています。
マーケティングオートメーション
最後に、「マーケティングオートメーション」です。その名の通り、「マーケティング業務」を「自動化」することです。
MarketoやSATORIなど、たくさんのツールが世の中に出ています。
例えば、新規開拓のためにメールを会社側のタイミングで一斉送信するのと、「顧客がコーポレートサイトに訪問して導入事例を見た」タイミングで送信するのとでは、間違いなく後者の方がタイムリーに顧客に届けられるはずです。
ただ、これを手動で行うとすると「いつ」「誰が」コーポレートサイトを訪れたかを「常に」ウォッチしておく必要があり、とても現実的には不可能です。
これを自動的に行ってくれるのがマーケティングオートメーションツールです。
この仕組みをマネジメントに生かすことができれば、部下とのコミュニケーションが非常にスムーズになるかもしれません。
イメージの例でいうと、業務用PCの最終ログイン時間が20時の日が3日連続続いたという条件設定で、「遅くまでいつもありがとう。業務溜まってたら教えてね。」みたいに自動送信できるような感じです。
いかに「自動化してる感じ」とか「機械っぽい感じ」を出さないかということと、部下にオートメーションツールを活用していることをバレないようにすることが肝ですが、実現すればこちらは何もしていないのに部下のモチベーションをあげることができるかもしれません。
さいごに
マーケティングとマネジメントは本質的に同じです。どちらも人を動かすことを目的としているからです。
マーケティングは人に商品を買ってもらうこと、マネジメントは人に仕事をしてもらうことをそれぞれ目的としています。
目指すところが人を動かして自分に利益をもたらすことであるため、本質的に同じだと考え至りました。
究極的には、人のモチベーション管理も自動化できればいいよね〜なんて思ってます。
それにしても、マーケティングってマネジメントにも応用できるし、自分で新商品を作ろうとしたときにも役に立つなんて無敵だな〜。