「SL理論」というリーダーシップ理論を聞いたことがある人は多いと思います。
ただ、理論としては理解できても、「で、実際にはどうすればいいの?」と思ってしまい、理論を現場で生かすことはなかなか難しいことがあります。
そこで、今回は3つの具体例から、SL理論を用いた対応例をご紹介します。どういう使い方をすればいいのか、本記事で感覚を掴んでいただければと思います。
もちろん現場は具体例のようにこんな簡単に一筋縄で物事は進まないと思います。
あくまで理論をケースに当てはめたらどうなるか、という視点でご覧ください。
SL理論について、概要を調べたことがあってすでに理解されている場合は、冒頭の解説をすっ飛ばして3つの具体例からご覧ください。
目次
SL理論とは
SL理論(Situational Leadership Theory)は、状況対応型リーダーシップと訳されます。
その名のとおり、
状況にあわせて対応できるようなリーダーシップの形、
ということです。
具体的には、部下の技術とやる気の2つに着目し、それぞれがどの状態にあるかにあわせて、部下への接し方を変えていきましょう、という理論です。
図で示すと、以下のようなものになります。
部下をR1〜R4のどこかに当てはめ、それに対応する指導をS1〜S4から選んで実行するとよいとされています。
でも教示的だの、説得的だのと言われても、イマイチピンとこないですよね。
というわけで、3つの具体例のなかで、実際にSL理論を活用してみます。
3つのケース
それでは、SL理論を具体例に活用するとどうなるかを3つのケースそれぞれでご紹介します。
SL理論を考えずに自分ならどうするか、という視点と、SL理論に当てはめて考えてみることの両方を行うことで、理解が深まると思います!
自動車整備業「株式会社A自動車整備工場」
あなたの会社は地元の老舗です。お客さまからの信頼も厚く、業績も好調です。しかし、今後のことを考えた結果新しくレンタカー事業を始めることにしました。そこで、あなたがいちばん信頼をおいているAAさんを責任者に抜擢しました。
AAさんはこれまで20年間整備一筋でやってきたベテランです。あなたからの期待に答えようと、喜んで責任者に手を上げてくれました。
社長であるあなたはどのような点に注意を払うべきでしょうか。
AAさんの現在地
具体例から、AAさんは以下の特徴があることがわかりました。
- こちらが一番信頼を置いている
- 20年間整備一筋のベテラン
- 喜んで手を上げてくれた
技術もあり、やる気もあることから、SL理論に当てはめた場合R4に該当するように思えます。
たしかに、こと整備に関してはそうなのですが今回新たに取り組むのは、社内でだれも従事したことのないレンタカー事業です。もちろんAAさんもレンタカー事業に携わったこともなければ、事業を始めるという経験があるわけでもありません。
つまり、レンタカー事業を任せたAAさんをSL理論の4象限に当てはめた場合、R2(やる気はあるけど技術がない)の状態となります。
SL理論を用いた対応例
AAさんはR2、つまり、やる気はあるけど技術がない状態です。そのため、
信頼しているAAさんに新規事業を任せたから安心! あとはなんとかしてくれるだろ!
と思い込んで放置するのではなく、レンタカー業の実務とスタートアップの知識を身につけられるよう接する必要がある、ということがSL理論から導き出せる次のアクションになります。
設問に回答するとしたら、「信頼しているからといって丸投げではなく、技術がないことを念頭に置くこと」です。
やる気があって信頼している人に仕事を任せた場合、放置してしまって失敗するケースは結構実生活でも起こります。
信頼しているから任せっぱなしにするのではなく、信頼しているからこそ現在地を忖度なく言い合うことが必要かもしれませんね。
システム制作会社「Bシステム株式会社」
あなたの会社は評判が良く、最近は得意先も順調に増えています。お客さまからの信頼も厚く、業績も好調です。しかし、今後のことを考え新卒社員を3名採用しました。
教育指導をするBBさんはあなたの右腕で、一番信頼を置いていますが、未経験者への教育指導は初めてです。
社長であるあなたはどのような点に注意をはらい、BBさんにどのような指示をすべきでしょうか。
BBさんの現在地
今回のBBさんは、普段から教育指導を行っているため技術があるように見えますが、未経験者への指導が初めてです。
つまり、未経験者への指導技術がない状態であり、右腕として信頼を置くくらいですからやる気はあるとすると、先ほどの事例と同じくR2に振り分けられます。
中途採用の人への教育指導と、新卒社員への指導は似ているようで違います。
業界用語やビジネス用語も噛み砕いて説明をしなければならず、加えてビジネスマナーという技術以外の部分も指導する必要があるからです。
というわけで、普段から教育指導を行っていても技術がない状態と判別するのが正しいのです。
SL理論を用いた対応例
今回の例では、新卒社員への教育指導を行うために必要な知識や技術をBBさんに身につけてもらう必要があります。
具体的には、新人研修に関する書籍を推薦したり、外部研修に参加させたりすることで、新卒社員への接し方や提供する必要がある情報を整理する指示を出す、ということになります。
BBさんにやる気があるのであれば、材料と期限を与えることで自主的に身につけていってくれそうですが、定期的な状況確認は行った方がいいでしょう。
食品加工会社「C食品加工株式会社」
あなたの会社は最近得意先も順調に増えています。お客さまからの信頼も厚く、業績も好調です。
しかし、目下の悩みのタネは入社2年目のCCさんのパフォーマンスです。上司や周りの評価を聞くと、CCさんはスキルもいまいちであり、やる気も感じられないとのこと。直属の上司であるDDさんも手を焼いています。
社長であるあなたはどのような点に注意をはらい、CCさんにどのような接し方をすべきでしょうか。
CCさん・DDさんの現在地
3つ目のケースでは対象となる登場人物が2人となります。
今回の例文には困った対象者としてCCさんが取り上げられているので、
CCさんをSL理論に当てはめて対応を考えてしまうこともあると思いますが、
2人それぞれのことを考える必要があることにご留意ください。
悩みのタネであるCCさんは、上司や周りの評価を聞く限り技術もなくやる気も感じられないため、素直に振り分けるならR1となるでしょう。
もう1人の登場人物であるDDさんはどうでしょうか。
DDさんはCCさんの上司であるため、技術もやる気も持っているように見えますが、直接指導をしているCCさんが成果を出せていないため、CCさんを教育指導する技術が足りていないと考えることができます。
つまり、DDさんはR2に当てはまる、ということですね。
SL理論を用いた対応例
これまでの2つのケースから考えて、CCさんがR!、DDさんがR2であれば、CCさんにはみっちりつきっきりで技術を教えるようにして、DDさんには成果が出ない部下の育て方をどのように身につけるか相談する、という回答が思いつきそうです。
ですが、現場に置き換えるとなかなかそうはいきません。
DDさんを飛び越えてCCさんを直接指導することは、DDさんにとってバツが悪いことは簡単に想像できますよね。
より現場的に考えると、まずCCさんにみっちり指導する必要があることをSL理論を用いてDDさんに伝え、DDさんにSL理論について調べさせます。
次に、DDさんがCCさんに直接みっちり技術を教え込んで、簡単な仕事をできるようにさせます。
その結果、達成感を味わって少しずつやる気が増し、CCさんをR2へ引き上げることができそうです。
注意点
SL理論を簡単にまとめると、状況と相手に合わせて取るべきリーダーシップを変えましょう、という理論です。
その「相手に合わせる」という内容だけを見て陥りがちな失敗が、部下の意見をすべて受容することです。
仕事がしんどいです。
と部下に言われたら、
しんどいよな〜
って返してしまうことです。
あくまで組織の目標を達成するための技術としてのリーダーシップであり、その理論のひとつがSL理論であるため、周りの人のネガティブに合わせる必要はありません。
仕事がしんどいです。と部下に言われたら、どこが? と聞き返すのが正解です。
SL理論は、相手に迎合することではないことに注意しておきましょう。
さいごに
SL理論は、状況にあわせて部下への接し方を変える方法です。
自分のスタイルとは合わない部下を切り捨てるのではなく、その人に合ったスタイルへとこちらを変えて成果を出そうとするアプローチです。
たしかにコントロールできない他人をなんとかしようとするより、コントロールできる自分を変えた方が、前進する可能性が上がりそうだと感じます。
筆者も実際の現場で「今の状況をSL理論を使って整理してみようか」と立ち止まれるようになりたいなと思います。