普段から文句ばかり言う部下と仕事をしていると、本当に疲れます。その文句を言うための情熱を少しでも仕事に傾けてもらえないかと、呆れる管理職の人も多いでしょう。
筆者も2021年の4月から文句ばかり言う部下を持つことになりました。着任直後は、25個にもわたる文句・不満をぶつけられました。抜粋すると以下のようなものです。
ほかの部署のキャパオーバーを理由に自分の仕事が増えることが納得がいかない
ほかの部署に下に見られている
こんなに大変なのに給料低い
初めは発狂しそうになりましたが、なんとか5月にはその文句を言わせなくすることができ、現在は前向きに部署のために意見をしてくれる人に成長させられました。
本記事では、同じ悩みを持つ管理職の人にぜひ試していただきたい、筆者が実践した文句ばかりの部下を黙らせる聞くスキルについてご紹介します。
目次
文句ばかりの部下を黙らせる「聞くスキル」4Step
早速ですが、普段から文句ばかり言ってくる部下を黙らせることができる聞くスキルを4Stepでご紹介します。部下と直接話をしているときの対応をイメージしてください。
以下1つずつ解説しますが、もし実際の会話例を先に確認したい場合は下部でまとめています。
Step1 部下の話を否定せずに聞く
まずは部下の文句を否定せずにしっかり聞きます。
「聞いてもらえなかった!」という新たな文句を言わせるスキをなくすためです。
たとえば部下が、
またあの部署から仕事降ってきたんですか? 絶対ヒマですよね、あの人たち?
と言ったとしましょう。
正しい応酬の仕方は、
お、本音で意見を言ってくれてありがとう。ちなみにどうしてそう思ったの?
です。こうすることで、「だって、今参加しているプロジェクトが本当に忙しくて、やることがどんどん溜まっていっちゃうんです。」と部下の話が進んでいき、根本の原因や改善策を探ることができます。
逆に、部下の話に被せ気味で以下のようなセリフを言うのはアウトです。
うるさいな、さっさとやれ!
この応酬だと、その瞬間部下は心を閉ざしてしまって、部下と建設的な関係を築き直すのはなかなか難しくなります。
部下の文句を聞いたときの最初のリアクションは「否定」ではなく「受容」にしましょう。
Step2 部下の話を聞いたらおうむ返しをする
まず部下の文句を否定せずに聞いたら、次はおうむ返しをしていきましょう。おうむ返しとは、部下が話したことを繰り返し伝えることです。
おうむ返しを挟むことによって、部下は以下のように思うからです。
自分の不満を聞いてもらえたから、これで改善されるかな? なら言ってみてよかった!
文句を言うというネガティブな状態から、少しだけポジティブな状態に部下が変わります。
具体的な言い回しは以下です。
なるほど。今取り掛かっているプロジェクトでやることが多くて、ほかの仕事が発生すると時間が足りなくなっちゃうってことだね?
こちらがこのようなおうむ返しをひとつ挟むことによって、部下は感情的に文句を言っている状態から一度冷静になることができ、「じゃあどうすればいいか」を考えられる状態になります。
建設的な話し合いをするためにも、一度部下には冷静になって状況を見つめ直してもらいましょう。
Step3 部下に問題点を整理してもらう
おうむ返しすることで部下が冷静になったら、今度は部下に自分の文句を元に、問題点がなんなのかを整理してもらいます。
部下に問題点を整理してもらうのは、以下の2つを狙っているからです。
- 管理職であるこちらが何でもかんでも考えるのではなく、部下自身で原因や問題点を考えてもらうことで、次に文句があったときに同じように考えられるようになること
- 何かあったときに他責(誰かのせいにする)のではなく、自分にも何か原因がないか考えてもらうことで、攻撃的な態度を改めさせること
おうむ返しをした後の会話の流れとしては、次のようになります。
それは改善しないといけないね。何が原因だと思う?
こちらが部下の文句を受容して、さらにおうむ返しすることで理解を示したことで冷静になり、「課題解決モード」になっている部下は、この問いかけで「何が問題だったのか」を考えてくれるようになります。
Step3でポイントになるのは、ところどころで部下の話を整理して、脱線しないようにしてあげることです。
部下が原因を考え出すと、
「あれも原因だ! あ、これも原因かも! そういえばあれってどうなってるのかな……」
と話があっちこっちに行ってしまい、時間をかけた結果答えが出ないことがままあるからです。
部下の問題点整理が脱線しかけたときは、以下のようにして話を元に戻してあげましょう。
複雑だけどちょっとずつ分かってきたね。元々はほかの仕事が発生しても、今進めてるプロジェクトでやることがたくさんあって困ってるって話だったね。で、その問題点はあれとこれ、って話になってるけど、そのほかはどうかな?
このように軌道修正を繰り返しつつ、部下の文句の原因を突き止めていきましょう。
Step4 部下に改善するならどうするか聞く
部下自身に問題点が何かを突き止めてもらったら、あとはどうすれば改善ができるのかという改善策の素案を確認すれば、部下の文句の対応は終了です。
部下自身に改善策を考えてもらうことは、以下2つを狙っているためです。
- こちらが改善策を考えて与えるより、部下自身で改善策を考えることによる施策への納得感を与えること
- 改善策なしの文句は相手に負担しか与えないと知ってもらうこと
文句がある部下が自らやり方を考えて動いてもらうのが納得感があるのはお分かりだと思いますが、2つ目の改善策のない文句を言わせないようにすることが重要です。
そのため、仮に部下が
改善策を考えるのは管理職の仕事じゃないんですか?
と言ってきたら、以下のように応酬しましょう(※ちょっと長いです)。
たしかにそう言いたい気持ちは分かる。ただ、改善策をセットで考えて提案することで、自分の要望を通せる割合は格段に上がるから、その方がいいと思ってね。仕事を丸投げされるのと、これをお願いしますって言われるのはどっちが取り組みやすいかな?
そりゃ後者ですね。考えなくていいですし。
そうだね。君の要望を叶えようと動く人も一緒だよ。今回の君の理想は問題が解決されることであって、不満や文句を言うことではないはずだよね。だったら、誰かに動いてもらう確率を上げるためにできることはやっておくべきだと思うよ。
ここまで伝えて、改善策を部下自身が考えることが自分の要望を通すために必要なことだと理解してもらいましょう。
最後に、そうして出てきた改善策のうち、部下が自分で取り組めるものと、周囲に確認や折衝が必要なものの2つに分け、お互いに取り組むことを約束して話を終了させましょう。
4Stepの聞くスキル実践編
今まで説明した4Stepの聞くスキルを、文句ばかりの部下との会話に当てはめてみます。ちなみに、これは筆者が実際に部下とやりとりをしていたときの内容です。
またあの部署から仕事降ってきたんですか? 絶対ヒマですよね、あの人たち?
お、本音で意見を言ってくれてありがとう。ちなみにどうしてそう思ったの?
だって、今参加しているプロジェクトが本当に忙しくて、やることがどんどん溜まっていっちゃうんです。
なるほど。今取り掛かっているプロジェクトでやることが多くて、ほかの仕事が発生すると時間が足りなくなっちゃうってことだね?
そうなんです!
それは改善しないといけないね。何が原因だと思う?
まずはやることが多いのが原因ですね! あ、人が少ないのも原因かも! そういえばAさんにお願いした案件って進んでるのかな……。
複雑だけどちょっとずつ分かってきたね。元々はほかの仕事が発生しても、今進めてるプロジェクトでやることがたくさんあって困ってるって話だったね。で、その問題点はやることが多いことと人が少ないこと、って話になってるけど、そのほかはどうかな?
今のところこの2つですね。
分かった。じゃあ、この2つを改善していくためにはどうしたらいいと思う?
え、改善策を考えるのは管理職の仕事じゃないんですか?
たしかにそう言いたい気持ちは分かる。ただ、改善策をセットで考えて提案することで、自分の要望を通せる割合は格段に上がるから、その方がいいと思ってね。仕事を丸投げされるのと、これをお願いしますって言われるのはどっちが取り組みやすいかな?
そりゃ後者ですね。考えなくていいですし。
そうだね。君の要望を叶えようと動く人も一緒だよ。今回の君の理想は問題が解決されることであって、不満や文句を言うことではないはずだよね。だったら、誰かに動いてもらう確率を上げるためにできることはやっておくべきだと思うよ。
確かにそうかもしれないですね。そしたら、プロジェクトでやるべきことを行う時間を決めるのと、物理的にスケジュールが厳しいことを合わせて、ほかの人を呼ぶってことが必要だと思います。
なるほど。だったら、プロジェクト関連の業務時間の決定と、それを踏まえた納期までのスケジュール予測を出してみてくれるかな? それを持ってほかの部署と調整してくるよ。
分かりました、やってみます!
こんなやりとりを部下が文句を言うたびに繰り返した結果、1カ月くらいで文句ではなく改善策を提示してくれる建設的な考え方ができる部下に生まれ変わってくれました。
文句ばかりの部下が、文句を言う原因
彼ら彼女らは、どういう考えで文句ばかり言ってくるのでしょうか? おおよそ、以下の3つの要素が絡み合って文句ばかりの部下が生まれます。
- 意見を通す方法を知らない
- 自分の要望を拒絶された経験がある
- 仕事の目的を説明されずに振られた経験がたくさんある
意見を通す方法を知らないのは、文句を言いたくなる気持ちをこらえて、どうやったら改善してもらえるのかを考えることができないということです。
また、原因の下2つについては「もし自分が同じ立場だったら?」を想定してみるとイメージが湧きやすいと思います。
たとえば、自分が自分の上司に対して現状の不満や文句を言ったときに、一切取り合ってもらえなかったときにどう思うかを考えてみてください。
全然話聞いてくれない! この会社ほんと終わってる!
と不満が不満を呼んで、さらに文句を言ってしまうのが想像できます。
自分の話し方が悪かったな。次はちゃんと聞いてもらえるよう原因と改善策をセットで説明しよう!
なんて思う人は、最初からこの「文句ばかりの部下」に該当しないですからね。
ということで、文句ばかりの部下を生み出さないためには、普段部下と会話するときから以下に気をつけることが重要です。
- 頭ごなしに否定せず、一度は話を聞く
- なんのために今の仕事をする必要があるのかを常に説明する
仕事の目的を説明する必要性について、以下の記事でも解説していますので参考にしてください。
部下に文句を言わせないためには部署のルール設定も大事
今までは「部下に文句を言われたら」という前提で記載してきましたが、今後発生させないために部署のルールを作っておくことをオススメします。筆者が部署で設定している「文句を言いたくなったとき」のルールは以下です。
- 文句を言うこと自体はOK。ただ、改善策も必ずセットじゃないと聞かないから準備すること。
- 伝えるときは、相手の気持ちを考えて伝えるようにしたほうが改善される可能性が高いので考えて伝えること。
この2つを共有してからは、記事執筆時点までの2カ月間で特に部下からの文句は発生していません。
現在快適な管理者ライフを満喫しています。
さいごに
文句ばかりの部下は、見方を変えると改善しなければならないことに気づいて意見を言える人です。
つまり、今まで改善策を考えることを教わってこなかったけど、改善しなければならないところに気づく「いい目」を持った人材であるといえます。
前提として、完璧な仕組みでビジネスを行えている会社はありません。そのため、貴重な改善案、現場の意見であると考えて部下の文句を頭ごなしに否定しないほうがマネジメントって上手く回るんだな〜と2021年から思っています。