遠隔地にいる部下をマネジメントする必要がある管理職の人が増えています。新型コロナウイルスによって、リモートワークが広まりましたし、もともと海外進出している企業にいる管理職では否応なしに必要でした。
私も2021年から直接指導を行うのではなく、遠隔地にいる部下たちをまとめる部署に異動となり、遠隔マネジメントを身につける必要に迫られました。その試行錯誤が始まって2カ月が経った今、「これがあればうまく回る」というものが分かりましたので、まとめてみたいと思います。
目次
遠隔のマネジメントで気をつけるべき5つのポイント
早速ですが、遠隔地にいる部下をマネジメントする際に「これを気をつければなんとかなる」というポイントは以下の5つです。
ひとつずつご紹介していきましょう。
遠隔マネジメントのポイント(1)部下の承認欲求を満たす
常日頃から、遠隔地にいる部下の承認欲求を満たしてあげることが、遠隔マネジメントにおける必須事項です。
遠隔地の部下は目に見える場所にいる部下と違って、普段の行動を上司に見られないため、承認欲求を満たされることが少なく、孤独感を味わってしまうことが多いからです。
たとえば部下がすごく上手にお客さまの対応ができたとします。直接そのシーンを見ることができる自分との距離が近い部下は、
いい対応だったね!
とすぐさま褒めることができ、褒められた部下は承認欲求が満たされるので満足そうな顔をします。
逆に遠隔地にいる部下がすごく上手なお客さま対応ができたとしても、その内容が良かったのか、そもそもそのシーンがあったことすらこちらは気づかず、褒めることができません。その結果、部下の中では
うまくいったぞ!
と思うことを上司に褒めてもらえず、それが積み重なることで
あの上司は自分のことを見てくれていないから、頑張ったってしょうがない
と組織に負の影響を与える存在になってしまいます。
組織に負の影響を与える存在を量産して、機能しない組織ができあがってしまう前に、遠隔地にいる部下の行動を観察し、承認欲求を満たしてあげることで回避できます。なんなら、
そんなことまで見てくれているんだ!
と普通に褒める以上の効果を期待することもできます。
遠隔地にいる部下だからこそ、積極的に褒めることで部下の承認欲求を満たすことが、遠隔マネジメントの基本中の基本なのです。部下に「孤独だ」と思わせたら負けだと肝に銘じておきましょう。
遠隔マネジメントのポイント(2)部下を適切に評価する
遠隔マネジメントの重要な要素として、遠隔で仕事をしている部下を適切に評価することがあります。
(1)の承認欲求を満たすことと少し似通っている部分はありますが、部下の
自分はちゃんと評価されているのだろうか……?
という疑問を解消するためです。
部下たちが自らの評価に対してどんな感想を持っているかというカオナビHRテクノロジー総研による調査結果が以下のグラフです。
近くにいて直接コミュニケーションを取れる部下でさえこの結果なのですから、遠隔地にいる部下ではなおさら不満があって当然なのです。
評価に不満を持っている状態では、「ある程度」の仕事は組織としてこなせたとしても、「一定以上」の仕事をこなすことはできません。
つまり、創造的な仕事が成功する可能性が低いということです。
そのため、遠隔地にいる部下をマネジメントする上では「適切な評価制度」を作って、それに基づいた「適切な評価」がなされる必要があるのです。
遠隔マネジメントのポイント(3)管理職から部下への一方的なものをなくす
遠隔地の部下をマネジメントするために、管理職から部下への一方的なものはなくしましょう。
部下の
私はこんなにたくさんの仕事をしているのに、一方的に仕事を振ってくる上司は何をしているんだろうか?
という不満を解消するためです。
管理職から部下への一方的なものとは、業務の指示や進捗報告などです。
一方的な指示命令を受けた部下は高確率で次のように思います。
じゃああなたは一体何をしているんですか?
この不満を解消するために、一方的に報告しなさいと命令するのではなく、こちらからも報告を行うことが必要なのです。
例えば、1日の仕事の成果を数値を使って報告するように求めている場合、上司であるこちら側の活動の成果も数値を使って報告するようにします。
こうすることで、部下が自分以上に上司がいろんな仕事をしていることを知り、部下の「上司何してるんだ」という不満を解消することができます。
遠隔マネジメントのポイント(4)部下との直接のコミュニケーションで笑顔にさせる
遠隔マネジメントの中で少ない機会である部下と直接コミュニケーションを取れる場では、部下を笑顔にすることを心がけることが大切です。
遠隔地にいる部下に上司と話をしていると楽しいと思わせ、繋がりを感じさせるためです。
直接コミュニケーションを取る場とは、例えば電話や1対1のオンライン面談、直接会って話ができるような研修や会議の場などです。
部下の立場からすると、「この人と話したい」「この人と仕事をしたい」「この人の意見を聞きたい」と思えるような人が上司なら、その上司に認められようとがんばるものです。そう思ってもらうための一番手っ取り早い方法が、直接のコミュニケーションが楽しいと思わせることなのです。
これによって遠隔地にいる部下を孤立させることなく、組織の一員たらしめることができるので、面談の際などにぜひ取り入れてみてください。
遠隔マネジメントのポイント(5)部下に送る文章に気をつける
遠隔マネジメントを円滑に進めるためのコツの1つとして、文章のコミュニケーションに注意し、明るい文章を打てるように心がけましょう。
ぶっきらぼうな表現をこちらがしてしまうことで、遠隔地にいる部下のストレスを溜めないためです。
リモートワークが隆盛になったことで、LINEやSkype、chatworkなどのチャットツールをビジネスで導入している企業は多いでしょう。スピーディーなコミュニケーションを実現できるので非常に有用なツールですが、使い方を少し気をつけなければ部下がストレスを溜め込んでしまいます。
簡単に使えるコミュニケーションツールだからこそ、相手へのちょっとした気遣いができると、より円滑に遠隔マネジメントを進めていくことができます。
遠隔マネジメントで明日からできる具体的な行動
ここからは、遠隔マネジメントのポイントを実践できる行動まで落とし込んだ内容をご紹介します。明日から実践すべきものは以下の6つです。
- 部下が発信する報告や制作物に必ず全部目を通す
- 自分たちの仕事が事業の中でどんな貢献をしているのかを説明する
- 月1回の頻度で1カ月の活動を振り返る面談をする
- 仕事を依頼するときは常に理由を説明する
- 毎日自分も日報を出すかスケジュールを公開する
- チャットなど気軽な文章のコミュニケーションの「。」を「!」にする
部下が発信する報告や制作物に必ず全部目を通す
まず、毎日15分〜20分の時間をとり、部下の報告や制作物に必ず目を通すようにしましょう。
これは部下の活動をできるだけ詳細に把握するためです。
ただでさえ直接のコミュニケーションを取れる部下の仕事内容を100%理解できているわけではないのに、遠隔地にいる部下の仕事内容なんて私たちはなおさら見ることができません。その状態が続くと部下の承認欲求を満たすことも、部下を適切に評価することもできません。
- 毎日の報告
- 日報
- チャットのやり取り
- スケジュール
これらを詳細に私たちが確認することで、部下の活動に合わせたフィードバックをすることができ、遠隔マネジメントのポイントである承認欲求と適切な評価の対応が可能となります。
毎朝始業後にわずかの時間を取ることで、大体のことを把握することができますので、ぜひお試しください。
自分たちの仕事が事業の中でどんな貢献をしているのかを説明する
常日頃から、会社の事業の中で私たちの部署がどのような役割を持っていて、その貢献度がどのくらいなのかを見えるようにしておくことをオススメします。
これは、事業の中で部下がどこの部分を担っているかを常に知ることで、組織としての一体感を出し、部下の承認欲求を満たすためです。
遠隔地にいる部下はどうしても孤独な状況になりがちです。
自分は役に立っているんだろうか?
何のためにこの仕事をしているんだろうか?
誰にも見られていないし自分一人サボったところで何も変わらないよな?
このように思っている部下を孤独やサボりから救うためには、
自分はこの組織にいなければならないんだ!
と部下自身に思わせることが必要です。
そのために必要なのは以下のような方法です。
- ことあるごとに会社の事業計画のおさらいをする
- 私たちが所属している部署のミッションを何度も話す
遠隔地にいる部下だけではなく、私たちの部下全員が今事業のどこの部分を担っているのかを常に理解させるようにしましょう。
月1回の頻度で1カ月の活動を振り返る面談をする
定期面談を実施することで、遠隔マネジメントのポイントの2つを満たすことができます。
すなわち、「管理職から部下への一方的なものをなくす」ことと、「部下との直接のコミュニケーションで笑顔にさせる」ことが、月1回の面談を設けることで可能になります。
定期面談の中で部下の話をいいことも悪いことも聞くことで、部下は自分の意見を話せていることで双方向コミュニケーションの場だと理解してもらえますし、自分と部下との直接の会話になるので、明るく振る舞って部下を笑顔にさせることもできます。
定期面談が正直楽しみなんです!
と部下に言わせることができれば、もう遠隔マネジメントは成功しているといっても過言ではありません。
定期面談の時間を取ることは大変ですし、部下が多ければそれだけ自分のほかの仕事をする時間が制限されてしまいます。
ただ、自分一人でできることなどたかが知れていますので、自分が仕事に集中するよりも、たくさんの部下が前向きに仕事に取り組めた方が大きな仕事をすることができます。
その投資だと思って面談の時間を作りましょう。
仕事を依頼するときは常に理由を説明する
遠隔の部下に仕事を命じるときは、必ず「その仕事をする理由」をセットで説明しましょう。具体的には、「●●をお願いします。●●のためです。」と説明するようにしてください。
仕事の理由を説明することは、部下が納得感を持って仕事に取り組むために必要なことだからです。
直接部下の顔を見て仕事の依頼ができていた新型コロナウイルスの発生前は、仮に理由を説明しなくても、部下はそれなりに上司が指示した仕事に取り組んでいました。
その理由は、仕事内容を説明する「言葉」という要素に加えて、「表情」や「声色」、「ジェスチャー」など、そのほかのたくさんの情報が上司の指示を補完していたからです。
たとえば、「会議資料を作成してください。」という指示を出すことをイメージしてください。
仮に上司が泣きながら土下座で「会議資料を作成してください!」と頼まれたらどう思いますか? なんかよく分からないけど、とりあえずやってあげるかって気持ちになりませんか?
ただ単に「会議資料を作成する」という仕事の言葉だけではなく、土下座という姿勢や涙などが相まって、「よく分からないけど、やらないとヤバいんだろうな」という印象を与えているのです。
このような、言葉以外の情報による指示の補完は、遠隔地にいる部下のマネジメントで一切活用できません。
チャットツールを使って文章だけで「会議資料を作成してください。」と言われると、一瞬で以下のような疑問が思いつく人が多いはずです。
なぜ私?
何のために?
他にもやることあるんだけど?
こんなふうに途端に反抗したくなる経験はきっと皆さんおありでしょう。
部下のこの「?」を事前に回避して、納得して仕事に取り組んでもらうために「理由の説明」が必要なのです。
今後、チャットツールなどで仕事の指示を出すときは指示と理由を必ずセットで出しましょう。
毎日自分も日報を出すかスケジュールを公開する
遠隔地にいる部下に日報を出したりスケジュールを報告させたりするのと同様に、自分の活動を部下にも公開するようにしましょう。
上司から部下への一方的なものをなくすためです。
そもそも、ZoomやMeetなどをずっと繋いで部下の活動を監視するケースが多いのは何故でしょうか? それは、部下がサボらないか心配な人が多いからです。ただ、こんなふうに一方的に監視されるのでは部下が反発するのは当たり前です。「上司は何してるの?」と思うのが普通です。
上司はきっと私たちの何倍も忙しいんだろうな。だから私も頑張ろう!
なんて何をしているか分からない上司の忙しさを勝手に想像して仕事する部下なんて、上司の妄想以外の何者でもありません。
こちらが部下に活動報告を要求するなら、こちらも活動報告を部下にするのもセットです。
チャットなど気軽な文章のコミュニケーションの「。」を「!」にする
急に細かい話になるのですが、文章のコミュニケーションを行う場合は「。」を「!」にしましょう。
無愛想な文章に明るさを持たせることで、部下のストレスを軽減するためです。
本日が納期です。資料提出をお願いします。
本日が納期です! 資料提出をお願いします!
下の方ですね(個人の意見です)。上の方は資料がまだ提出されていないことを怒りながらも、それを抑えているような見え方をします。
すごくちょっとした工夫で、文章の印象は変わります。明日送信する文章からぜひ変えてみてください!
遠隔マネジメントを行う上で自分が楽になる方法
遠隔マネジメントを楽に行うために工夫すべきことは以下の2つです。
- 報告が勝手に上がってくるようにする
- 数値確認はできるだけ自動化する
自分から毎回部下の仕事の情報を取りに行くのも大変ですし、部署の数値状況を確認する作業に時間を取られていては遠隔マネジメントに必要なプラスαのことができなくなります。
部下が報告するタイミングをスケジュールとして入れておくことと、Excelやスプレッドシートの数式、マクロ、API連携やRPAなどITを大いに活用して効率化しましょう。以下関連記事を参考にしてください。
今まで記載している方法は、ともすればコロナ前はやらなくて良かったことかもしれません。自分が何をしているかは同じオフィスにいれば部下が見たら分かりますし、理由をわざわざ伝えなくても「これよろしく!」で仕事を振れていた人が多いからです。
ただ、そのままでは遠隔の部下の猜疑心が増えてしまい組織が崩壊しかねないのがウィズコロナの今日です。
5つのやり方を真面目にこなすと成果は出ますが、今までやっていないことを追加することになるので管理職である私たちの業務を圧迫します。
自分ができるだけ楽をして日々の仕事が回るようにして、部下の状況の把握に努めるだけで部署の成果を出せるとお約束します。
さいごに
新型コロナウイルスが終わったとしても、リモートワークが完全にゼロになることはないでしょう。また、グローバルな仕事をする会社ではそもそも遠隔でのマネジメントが当たり前になります。
本日お伝えしたポイントで、遠隔地にいる皆さんの部下のマネジメントがうまくいくことを祈っています。